大企業のリソースを活かした起業や新事業創出に──。東京都は6日、都内で、「新事業発掘プロジェクト(GEMStartup TOKYO)」の機運醸成イベントを開催した。

イベント第一部では、株式会社デンソー 新事業推進室 担当部長 兼 株式会社OPExPARK 取締役副社長の奥田英樹氏を迎え、「転換期を迎えた中でのカーブアウトの重要性」をテーマに基調講演。「カーブアウト」とは、企業が自社事業の一部門を切り出し、新たにベンチャー企業を立ち上げて独立させること。コロナ禍、働き方改革、SDGS、ウクライナ情勢など社会環境が変わるなかで、カーブアウトの重要性や経験談を語った。

自動車部品の総合メーカー・デンソーからカーブアウトし、医療手術情報配信サービス「OPExPARK」を立ち上げた奥田氏は「(デンソー由来の)センサー技術と手術ロボットなどの創出で得られたプラットフォームで医療機器にパラダイムシフトを起こしたい」と起業時に熱意を抱いていたという。現在、手術に必要な情報・ノウハウ・機器情報をデジタルプラットフォーム「OPeLiNK」で共有し、全世界どこからでも手術にアクセスできる「手術室のネットワーク化」を実現した。

スタートアップといえば、VC(ベンチャーキャピタル=投資会社)から資金調達が必須になるが、奥田氏は「(VCに)主導権を渡すことが必要条件。それと引き換えに資金を得て事業を加速させることができる」と話す。また、スタートアップ企業の将来のために「経営に曖昧さ・柔軟性を残すこと」と、成功の秘訣を伝授した。

第二部では、ユビ電株式会社 CEO & Co-founderの山口典男氏と、ソニーベンチャーズ株式会社 シニアインベストメントダイレクターの鈴木大祐氏を招いたパネルディスカッションを実施。「企業の未来を切り開く”カーブアウト”とは」をテーマに、カーブアウトの成功事例や、スタートアップが育つことで実現する未来について語った。

ソフトバンクの社内イノベンチャー制度で事業プランにて優勝。2019年4月、ユビ電株式会社を創業し、EV充電サービス「WeCharge」を展開する山口氏は「カーブアウトした人を温かく見守ってほしい。ダメだったら企業が再雇用するくらいの柔軟性がほしい」と企業への期待を語る。また、VCにも「論理だけではなく、直感的に投資する人が増えてほしい」と、「いいにおいがする」と言って投資してくれたソフトバンク孫正義社長の話を引き合いに出した。

JAL経営再建業務に参画したのちソニーベンチャーズ株式会社を設立し、投資側にまわった鈴木氏。日本発のスタートアップには何が必要か?という質問に「失敗してもなんとかなっている事例を増やすことが必要。成功事例を見ていると、究極は、(お金より)思想や思いが同じ人たちの強いつながりだと思う」と話した。

東京都で実施している「新事業発掘プロジェクト(GEMStartup TOKYO)」は「新事業エントリープログラム」「事業化プログラム」「新事業創出に向けた企業支援プログラム」の3つのプログラムを実施して、豊富な講師陣やノウハウでスタートアップを後押しする。完全無料でオンライン参加可能、夜間開催となっていて、企業で働く「未来の担い手」にもやさしい企画となっている。